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名古屋地方裁判所 平成元年(ワ)596号 判決

反訴原告

成川銀一こと成銀河

反訴被告

林俊弘

主文

一  反訴被告は、反訴原告に対し、金二四一万二九八二円及びこれに対する昭和六二年四月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  反訴原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その二を反訴原告の負担とし、その余を反訴被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  反訴被告は、反訴原告に対し、金八八六万六九三一円及びこれに対する昭和六二年四月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は反訴被告の負担とする。

3  仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  反訴原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は反訴原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和六二年四月二九日午後四時三〇分頃

(二) 場所 名古屋市緑区鳴海町字杜若七番地一先路上(別紙現場見取図参照)

(三) 加害車 普通乗用自動車(名古屋五四と三八二〇)

(四) 右運転者 反訴被告

(五) 被害車 自動二輪車(名古屋市緑あ一一九四)

(六) 右運転者 反訴原告

(七) 事故態様 前記路上を右方に進路を変えて右折しようとした加害車前部と、右後方から進行してきた被害車左側面とが衝突し、反訴原告は被害車とともに路上に転倒し、後記傷害を受けた。

2  責任原因

反訴被告は、加害車を運転し、前記路上先の中央分離帯の切れ目付近に差しかかつた際、その合図をしないでいきなり右折したため、反訴原告は加害車を避けることができず衝突したものであるから、本件事故の発生につき、反訴被告に過失があることは明らかである。従つて、反訴被告は、民法七〇九条により、反訴原告の後記損害を賠償する責任がある。

3  反訴原告の受傷及び治療経過

(一) 反訴原告は、本件事故による顔面多発挫創、両肩打撲挫創、頸部挫傷等の傷害により、かがみ外科へ、昭和六二年四月二九日から同年七月一日まで六四日入院し、同年七月二日から昭和六三年二月一九日までの間に一三〇日通院した。

(二) 反訴原告は、本件事故による歯牙傷害により、野並歯科診療所へ、昭和六二年四月三〇日から同年八月二一日までの間に一五日通院した。

(三) 反訴原告は、本件事故による頭部外傷症候群、両神経性耳鳴症により、昭和六二年七月一七日から同年八月七日までの間に四日通院した。

(四) 反訴原告は本件事故による受傷のため後遺障害が残り、現在なお加藤整形外科ヘリハビリのため毎日通院している。

4  損害

(一) 入院雑費 七万六〇〇〇円

一日当たり一二〇〇円の割合による六四日分。

(二) 付添看護料 七万六五〇〇円

一日当たり四五〇〇円の割合による一七日分。

(三) 通院交通費 四万五四四〇円

反訴原告につき一日当たり二二〇円の割合による一三五日分の四万三二〇〇円と、近親者につき二二四〇円の合計額。

(四) 休業損害 四八万四一二〇円

反訴原告は、本件事故当時、成田硝子有限会社に勤務し、右事故前一年間の給与は四〇六万七五一〇円であつたところ、前記受傷による入・通院のため、右会社を欠勤することを余儀なくされ、あるいは同会社を昭和六二年一二月に退職後も昭和六三年二月頃に父の経営する成川組に勤務するまでは就業することができず、その間右の収入を得ることができなかつたが、加害車加入の任意保険の保険会社である日新火災海上保険株式会社から支払を受けた休業補償費三二万五九七四円及び労働者災害補償保険(以下「労災保険」という。)から支給された休業補償給付一四五万二一一五円の合計一七七万八〇八九円を控除すると、残額は四八万四一二〇円となる。

(五) 逸失利益 四八九万〇三五六円

反訴原告は、前記の如く昭和六三年二月頃から父の経営する成川組に勤務することになつたが、本件事故前に比較して年額二五万六四四〇円の収入減を生ずることとなつた。

そこで、反訴原告の稼働可能年数は三二・七年であるから、新ホフマン方式により年五分の割合で中間利息を控除すると、その逸失利益は四八九万〇三五六円となる。

256,440×19.07018=4,890,356

(六) 慰藉料 三一七万円

前記入院分として八七万円、前記通院分として八〇万円のほか、反訴原告は、頭部外傷症候群、両神経性耳鳴症等の後遺障害(自賠法施行令二条別表の後遺障害等級第一四級競合)が残つたので、これに対する移籍料額は一五〇万円とするのが相当である。

(七) 物損 一二万四五一五円

本件事故により原告所有の自動二輪車及びヘルメツトが破損し、右自動二輪車の修理には一一万八三五〇円を要し、新品ヘルメツトの購入には二万円を要するので、右合計一三万八三五〇円の九割である一二万四五一五円が右事故による損害である。

5  結論

よつて、反訴原告は、反訴被告に対し、八八六万六九三一円及びこれに対する本件事故発生日の翌日である昭和六二年四月三〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実は否認する。

3  同3の事実中、(一)ないし(三)は認め、(四)は反訴原告に後遺障害が残つたことは認めるが、その余は否認する。反訴原告の後遺症状は昭和六二年八月七日固定し、その後遺障害自賠法施行令二条別表の後遺障害等級第一四級に該当する。

4  同4の事実は、(四)のうち反訴原告が日新火災海上保険株式会社及び労災保険からその主張の金額を受領したことは認めるが、その余はいずれも知らない。

5  同5は争う。

三  抗弁

1  過失相殺

反訴原告は、被害車を運転し、本件道路の右側車線を時速約五〇キロメートルで進行していたのであるが、加害車が右折の合図をしながら減速して右折しようとしていたのであるから、加害車の右側を通過するに当たつては、加害車の速度や動静を確認して進行すべきであるのに、これを怠つた過失がある。

2  損害の填補

(一) 反訴原告は、前記日新火災海上保険株式会社から治療費等として、次の支払を受け、その損害が填補されている。

(1) かがみ外科入・通院分 六四万九二五〇円

(2) 野並歯科分 三〇万九六四〇円

(3) 付添看護料 二万八七七七円

(4) 休業補償費 三二万五九七四円

(二) 反訴原告は、労災保険から次の保険給付を受け、その損害が填補されている。

(1) 療養給付 七一万二九一五円

(2) 休業補償給付 一四五万二一一五円

(三) 反訴原告は、自賠責保険から後遺障害分として七五万円の支払を受け、その損害が填補されている。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実中、反訴原告が被害車を運転して本件道路の右側車線を時速約五〇キロメートルで進行していたことは認めるが、その余は否認する。

2  同2の事実はいずれも認める。

第三証拠関係

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおり。

理由

一  請求原因1(本件事故の発生)の事実は当事者間に争いがない。

二  同2(責任原因)の事実について

1  原本の存在及び成立に争いのない甲第二号証の二ないし五によれば、次の事実を認めることができ、反訴原告本人尋問の結果中この認定に反する部分はにわかに措信し難く、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

(一)  反訴被告は、加害車を運転し、本件道路の左側車線を本件事故現場付近に向つて時速約五〇キロメートルの速度で南進し、右現場の約六八・三メートル手前の別紙現場見取図〈1〉地点にさしかかつたが、その先の中央分離帯の切れ目を右折するため、右折の合図を出し、減速しながら進路を右側に変更し約二九・五メートル進行して〈2〉地点に至つたものの、右折するか否かを迷いながらさらに進路を徐々に右に変更し約三十数メートル進行して右現場の約一・八メートル手前の〈3〉地点に至つた際、後方の安全を確認しないまま右折を開始したため、折から右後方の中央分離帯寄りを同一方向に進行してきた反訴原告の運転する被害車を衝突直前に発見し、急制動をかけて被害車との衝突をさけようとしたが間に合わず、〈×〉地点で加害車を被害車に衝突させた。

(二)  他方、反訴原告は、被害車を運転し、本件道路の右側車線を本件事故現場付近に向つて時速約五〇キロメートルの速度で加害車のやや後方を併進するような形で南進し、右現場付近にさしかかつた際、加害車が減速し出したので、その右側を追い越そうと考え、加害車の動静に十分注意しないままその右側を進行しようとしたため、前記見取図〈3〉地点で右折を開始した加害車を直前に発見し、ハンドルを右に切りながら急制動をかけて加害車との衝突をさけようとしたが間に合わず、〈×〉地点で被害車を加害車に衝突させた。

2  右認定の事実によれば、反訴被告には、右折をする際に右後方の安全を確認しなかつた過失があることは明らかであるが、他方、反訴原告においても、加害車の動静に十分注意することなくその右側方を進行しようとした過失があることが認められる。そして、双方の過失割合は、反訴被告が八〇パーセント、反訴原告が二〇パーセントと認められる。

三  請求原因3(反訴原告の受傷及び治療経過)の事実について

1  同(一)ないし(三)は当事者間に争いがない。

2  そこで、反訴原告の後遺症状について検討するに、原本の存在及び成立に争いのない甲第七号証、第一二号証及び反訴原告本人尋問の結果によれば、反訴原告は、本件事故による受傷の後遺症状として頭部外傷症候群、両神経性耳鳴症等の後遺障害が残り、右症状は昭和六三年二月一九日固定したこと、右後遺障害は自賠法施行令二条別表の後遺障害等級第一四級一〇号に該当することが認められ、反訴原告がその後も加藤整形外科へ通院しているとの事実(反訴原告本人尋問の結果)によつては右認定を左右するに足りず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

四  請求原因4(損害)の事実について

1  入院雑費 六万四〇〇〇円

反訴原告は、前記三の1の認定にかかる六四日間の入院を余儀なくされたが、その間の入院雑費として、経験則上一日当たり一〇〇〇円の割合による六万四〇〇〇円を要したものと認めるのが相当である。

2  付添看護料 二万四五〇〇円

原本の存在及び成立に争いのない甲第七号証及び反訴原告本人尋問の結果によれば、反訴原告は、前記入院期間のうち七日間付添看護を必要とし、近親者の付添看護を受けたことが認められ、この認定を覆すに足る証拠はないところ、右近親者の付添看護に必要な費用は、経験則上一日当たり三五〇〇円であつたと推認するのが相当であるから、その合計額は二万四五〇〇円となる。

3  通院交通費 三万一九四〇円

前掲乙第一七号証及び弁論の全趣旨によれば、反訴原告は、前記三の1の認定にかかる一三五日の通院日数につき一日当たり二二〇円の割合による二万九七〇〇円、及び近親者の通院費用として二二四〇円の合計三万一九四〇円を支出したことが認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

4  休業損害 三〇五万〇六三二円

弁論の全趣旨により成立の認められる乙第二号証及び反訴原告本人尋問の結果によれば、反訴原告は、本件事故当時、成田硝子有限会社に勤務し、本件事故前一年間の給与は四〇六万七五一〇円であつたが、前記三に認定の傷害による入・通院のため、右会社を欠勤することを余儀なくされ、あるいは同会社を昭和六二年一二月に退職後も昭和六三年二月頃に父の経営する成川組に勤務するまでは就業することができず、この間約九か月にわたつて右収入を得ることができなかつたことが認められるので、その休業損害は三〇五万〇六三二円となる。

4,067,510÷12×9=3,050,632

5  逸失利益 五五万五四一八円

前記三に認定の反訴原告の後遺障害の内容・程度によると、反訴原告は、右後遺障害によりその労働能力の五パーセントを喪失したものであり、その喪失期間は症状固定時から三年間と推認するのが相当である。そこで、前記収入年額四〇六万七五一〇円から新ホフマン方式により年五分の割合で中間利息を控除し、その逸失利益を算出すると五五万五四一八円となる。

4,067,510×0.05×2,731=555,418

6  慰藉料 二一〇万円

本件事故の態様、反訴原告の傷害の部位・程度、治療経過、後遺障害の内容・程度その他諸般の事情を斟酌すると、反訴原告が本件事故により被つた精神的苦痛に対する慰藉額は二一〇万円(入・通院分一四五万円、後遺障害分六五万円)とするのが相当である。

7  物損 一二万四三五〇円

反訴原告本人尋問の結果及びこれにより成立の認められる甲第一四号証の一、二によれば、反訴原告は、本件事故によりその所有の自動二輪車及びヘルメツト(中古品)を破損し、右自動二輪車の修理費として一一万八三五〇円、新品ヘルメツトの購入代として二万円をそれぞれ要することが認められるので、右修理費一一万八三五〇円及び新品ヘルメツトの購入代二万円の約三分の一である六〇〇〇円、以上合計一二万四三五〇円の損害を被つたものと認めるのが相当である。

五  過失相殺

反訴原告の前記過失を斟酌し、前記各損害の金額から過失割合に応じて各二〇パーセントを減額すると、反訴原告の損害は次のとおりとなる。

1  入院雑費 五万一二〇〇円

2  付添看護料 一万九六〇〇円

3  通院交通費 二万五五五二円

4  休業損害 二四四万〇五〇五円

5  逸失利益 四四万四三三四円

6  慰藉料 一六八万円

7  物損 九万九四八〇円

六  損害の填補

反訴原告が任意保険から付添看護料二万八七七七円及び休業補償費三二万五九七四円、労災保険から休業補償給付一四五万二一一五円並びに自賠責保険から後遺障害分七五万円をそれぞれ受領したことは当事者間に争いがない。

そこで、右受領額は前記損害のうちこれらと同性質の損害から控除すべきであるから、右付添看護料二万八七七七円を前記五の2の損害一万九六〇〇円から控除すると残額はなくなり、右休業補償費三二万五九七四円及び休業補償給付一四五万二一一五円の合計一七七万八〇八九円を前記五の4及び5の損害合計二八八万四八三九円から控除すると残額は一一〇万六七五〇円となり、右後遺症分七五万円を前記五の6の損害一六八万円から控除すると残額は九三万円となる。従つて、反訴原告の損害の残額は合計二二一万二九八二円となる。

七  弁護士費用

本件事案の内容、訴訟の経過、認容額その他諸般の事情を勘案すると、本件事故と相当因果関係のある損害として反訴原告が反訴被告に請求し得る弁護士費用額は本件事故時の現価に引き直して二〇万円とするのが相当である。

八  結論

よつて、反訴原告の請求は、反訴被告に対し金二四一万二九八二円及びこれに対する本件事故発生日の翌日である昭和六二年四月三〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 寺本榮一)

現場見取図

〈省略〉

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